神社

庭の鳩に餌をあげないでください

上手になることの話

なるべく上手になりたい。上手になれるように努力している。

上手になりたいってのはわりと普通のことで、上手になれるのになりたくない人はあんまり居ない。上手になったほうが楽しそうだからだし、上手な方が優越感がある。僕は上手な方がいい。

何が上手になりたいかって、そりゃ、あの、あれ……なんだっけ。

『上手』になりたかった。なんでもできるスーパーマン。ひとっ飛びでダンクを決め、下りながら面を打ち、振り向かずにバク転してオーバーヘッドシュート!みんなに囲まれて褒められながら難しい計算を解いて、答え合わせの間に新曲を作って歌う。あーなんかかっこいいな、何かできる人はいいな、かっこいいな、上手になりたいなぁ。どれか、一個でいいのに。

人と上手に喋れる人が羨ましい。恥ずかしがらずに積極的に話してみよう。知的に本を読むあの子が羨ましい。僕も本を読もう。コンピューターを触れる彼が羨ましい。僕もコンピューターを買ってもらって、買ってもらって、あ、僕はまだ親と上手に喋れない。

頑張った。努力した。真剣だった。そこそこ真剣だった。自信ない。上手な彼らはきっと僕らより真剣だろうし。真剣さが足りないから上手になれない。熱中してないと上手になれない。僕は上手になろうとすることだけ、ずいぶんと上手になったなぁ。上手がそろそろゲシュタルト崩壊

そのうち耐えられなくなった。出来る人が出来ないことを探すようになった。奴はまぁ、歌うのは上手だけど大して算数も出来やしない。僕のほうが算数は出来るね。あー彼は運動はいいけど国語が全然だめだよ。僕の半分も本読んじゃいないさ。あの子?あの子ねぇ。いいんじゃない、まぁ好きなんでしょ?コンピューター。でもあれじゃあだめだよ。あんな内向的じゃ。もっと人と話さないと、僕程度ぐらいは。

上手な人の下手なことを探したら、上手な人は人間だったことに気がついた。僕にとっては『僕』か『周り』かで、周りにはいろんな人が含まれていて、僕はその人たちの上手を集めて『周り』を作っていた。周りはなんでもできた。出来ないことなんてなかった。でも、中にいる人は1人ずつ、何か上手なことが1つあるだけの、普通に生きている人だった。

裏切らないでくれよ、こんなところまでこさせておいて、今更自分たちにだって苦手なことぐらいあるさなんて笑わないでくれよ。僕は、みんなになりたくて、こんなに上手になろうとすることだけ上手になったのに。

上手になろうとし続けて、僕は何も上手になれなかったけど、上手な人が下手なことを助けられるようになった。

もう上手になれなくていい。もう僕は上手なのだ。僕が憧れた上手な人を、人たちを。彼らの下手を一番助けられるのは僕なのだ。